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綺麗なモノって言うのは、すぐに見飽きてしまうという。
本当にそうだろうか。
例えば、その綺麗なモノの表情が自分の思ったものとは違ったように変わって、時に思いもよらないような表情を見せてくれたとしたら。
そんな瞬間が訪れるのが、明日なのか、一年後なのか、十年後なのか、はたまた今なのか、さっぱりわからないとしたら。
そうならば、そう簡単に飽きてしまったりはしないんじゃないかと思う。
綺麗なモノって言うのは、自分の中で特別だ。
そんな特別な思いを噛み締めながら、俺は隣をゆっくりとした足取りで歩く全身黒でコーディネートされた男を横目で盗み見た。
長い睫毛、流れる艶やかな黒髪、透き通った白い肌、切れ長の瞳。
どれをとっても洗練された黒猫みたい。
じっと見つめているのがバレたらこの黒猫はすぐに不機嫌になってしまう。
そんな仏頂面すら愛おしいと感じる俺も相当おかしいのは自覚しているんだけれど、せっかく二人で久しぶりにこの公園まで来ているのだから、自ら空気を壊してしまうようなことは避けた。
丘の上公園。
義明の家から歩いて20分くらいのところにある、ちょっとした小高い丘の上にある公園だ。
住宅街を抜けていくと、民家の間に長い階段があって、そこを上っていくと綺麗にタイルの敷き詰められた広場がある。でっかい噴水がその広場の真ん中にあって、この公園のメインは多分それになるんだろう。
空はすっかり真っ黒に染まっていて、街の明かりが薄ぼんやりと溶けて地面に近いところだけうっすら明るい。
公園に設置されたライトは冷たい光を煌々と放っていて、時間が時間だからか、もう人の姿はなかった。
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