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俺は込み上げてくる懐かしい気持ちにくすぐったくなりながら、公園を見回した。
義明と初めて会った公園。
あの時は俺はまだ高校生で、制服姿で、まさか自分がこんな風に義明と関係を持つだなんて思いもしなかった。
俺の少し前を、義明が歩いていく。
義明の薄い唇から漏れる息はうっすらと白くなる。空気が冷えている証拠だった。
黒いかっちりしたウールコート。
義明の革靴の底が地面と擦れて、歩くたびにざりっざりっと音を立てた。
義明の行く先はわかっている。
俺は首周りに固めのファーが付いたカーキ色のコートの前を手で締めながら、義明の後を追いかけた。
タイル広場を抜けて更に公園を奥に進んでいくと、低木の植木の間に手摺付きの階段が見えてくる。ちょっと急な感じの階段だけど、気を付けて上れば大したことはない。少しだけ息を弾ませながら階段を全部上り切ると、ふわっと視界が開けた。
「…わぉ」
思わず感嘆の声が漏れる。
眼下に広がるキラキラと広がる街の夜景。
遠くに海が弧を描くように広がっていて、その縁を舐めるように光の群れが敷き詰められている。それを一望出来るこの公園は、知る人ぞ知るとっておきの場所だ。
キンッと。
横でZIPPOのフタの開く音がする。それとほぼ同時に、オレンジ色の炎がぼんやりと義明の顔を照らし出した。
ふぅっという吐息と共に、KOOLの香りが舞う。
「ホント、好きよね。此処」
コートのポケットに手を突っ込みながら俺が笑うと、義明は俺を一瞥して緩く瞬いた。
「落ち着くんだ」
てっきり「うるせぇ」とでも返ってくるかと思っていたのに。これは予想外。
そんな無防備な顔も見せるんだ。
公園の明かりはいつもと変わらず、イルミネーションが点くでもない。
来る途中の街路樹には、申し訳ない程度の電球がまばらについていたけれど、公園に足を踏み入れると、いつもの風景が広がっているだけだった。これじゃあカップルも来ないだろう。
綺麗なものが大好きな女の子たちは、駅の周りとかタワーのイルミネーションとか、それらを見られるいい雰囲気のレストランとか、そういうのを好みそうだ。こんな質素な公園にわざわざ寒い思いして来るのは、物好きの義明とそれにくっついてくる俺くらいなもんだろう。
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