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最終話
「そ……そうだよ」
「汚い人間なのは逆に私の方です。こんな真似をしてでも貴方を手に入れようとしたのですから。だから、私は梨人様が思っているような人間ではありません」
「いや、お前は俺とは違う。俺は平気で誰とでも寝る男だぞ?」
「知ってますよ。それも含め、私は傍でずっと貴方を見てきました。それにシキとして素のままの梨人様に触れ、更に私は貴方の事が好きになりました。日頃は少し我儘な所はありますけど、こんなに素直な所も持ち合わせているんだと。それだけじゃない、梨人様は気遣いの出来る素晴らしい方です。だから私への気持ちも必死に我慢して……」
「そんなことない、俺は……」
触れられた指先は熱く、神楽坂の想いを表してるかのようで鼓動が速くなる。
「もう我慢しないでください。私も、もうシキは必要ない」
「シキ……か。あのさ、ひとつだけ教えて欲しい。なんでシキなんだ?お前の名前全然違うし……」
「姫を守るのはナイトの役目でしょう?」
「……ナイト?」
「ナイトは騎士とも言う。それに、一つの名前でも二通りの呼び方が存在する場合があるのです」
それ以上は語ることなく神楽坂が指先にくちづけると、夜風に乗ったゲッカビジンの香りが強く香ってきた。
「こんな真似をして申し訳ございませんでした。旦那様から梨人様の縁談の話を聞いて、気持ちが焦ってしまって……」
「お前でもそんな焦ることあるんだな」
「貴方をそれ程にも想っているからです」
「なぁ、キス……いや、くちづけをしてくれ」
すると、俺を抱き寄せ神楽坂から初めてのくちづけが落とされる。
それはシキとのキスとはどこか違う優しいくちづけだった。
「梨人様……」
「様はいらないって」
そして、交わしたくちづけと共に俺たちの距離が更に近くなる。
「……梨人、愛してる。俺はお前の全てが愛おしい」
────
───
もしも願いが叶うなら……
貴方は何を願いますか?
俺は────
素の自分を愛してくれる人と出逢い、その人を心から愛したい。
「なぁ?お前がナイトだと言うならなら一生俺を守り、ずっと俺の傍にいろ」
「キスがしつこくても文句言うなよ?」
「シキのキスも神楽坂のくちづけもどっちも好きだから安心しろ」
叶えられた願いは、甘い香りと共に深くこの胸に刻まれる。
そしてこれから先、何度夏が巡ってきても、俺はこの数日間を懐かしむのだろう……
愛するこの男と共に。
END
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