1人が本棚に入れています
本棚に追加
覆水盆に返らず
ダリオンの生まれた村は辺境ではあるが、大きな河があり、そこそこ水源に恵まれた村だった。
彼は毎日米を作る仕事をしていたが、たまたま村に寄ったという、武器商人から「魔王」の噂を聞いた。
なんでも「魔王」は人間を全滅させ、魔物だけの世界にしようとしているという。
武器商人は各国の勇者が買って行くという剣をダリオンに見せた。酒場ですっかり酒に酔った商人は「君も勇者になるかい?」と軽い調子で聞いた。ダリオンは友人のウィルと顔を見合わせて首を傾げた。
「農作業も大変だろう?雨は降るわ、風は吹くわ。 魔王を倒せば一生遊んで暮らせるんだ。いまなら格安でこいつを売ろう」
武器商人の掲示した額はダリオンの毎月の小遣いでもギリギリ買えるくらいの価格で、たしかに安いんだろうなとは思った。
友人のウィルは少し悩んで、「村に魔物が来た時にも使えるし、とりあえず買っておくか」と剣を購入した。
武器商人は「君たちこそ魔王を倒すと信じている」と酒をおごってくれた。翌日には村を去り、そして二度と会うことはなかった。
「どーすんだ、この剣」
ダリオンが問うと、ウィルはニヤリと笑った。
ウィルは村の村長の息子で、いつも自信に満ち溢れていた。
最初のコメントを投稿しよう!