覆水盆に返らず

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ウィルが笑顔で家に帰るのを見届けて、ダリオンは手に持った剣を見つめた。 「勇者になんかなれるわけないって」 また苦笑する。明日の剣の稽古までこれは使わないだろう。 剣を自宅の倉に格納し、家に戻った。 「いやー懐かしいな。もう剣の稽古を始めて5年か」 ウィルが空を見上げる。 「そんなに経ったのか」 ダリオンは地面を見ていた。靴の上に蟻が這っている。 「村を出て、2年だな」 「みんな元気かな」 ウィルに付き合わされる形でが剣の修行を始めたのが5年前、みんなに祝福されながら村を出たのが2年前だ。 勇者ウィルは辺境の騎士にも関わらず王都の騎士と同じ技を使い、魔物を倒した数も100を超え、東の洞窟で悪さをしていたドラゴンも倒し、そこそこ名を挙げていた。 「今、「魔王」は軍勢を集めているらしいな。俺たちも王都で「魔王」を迎え討つ準備をしようか」 ウィルが剣を振る。ウィルの剣はもう何本買い替えたかわからない。今持っている剣も魔物との戦闘のせいで刃こぼれしていた。 「王都まではまだ遠い。近くの町で武器や飯を揃えよう」 ダリオンが提案するとウィルはニヤッと笑った。 「すっかり旅に慣れたな。最初は村から出るのをあんなにしぶっていたのに」 「農作業のほうが向いてたと思う」 「ダリは……お前の方が勇者向いてると思うけどな……」 「?」     
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