冬の犬

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霊感を無くしてくださいという願い事はしなかった。 今朝までは、願う気満々だったのだが、少しだけ思いとどまってみた。 あの男の悲しみ、怒り、後悔。 それらから開放してあげられたのならば、自分のこの煩わしい力も、意味のある事なのかもしれない。 体は寒いが、少しだけ気持ちが温かくなった。独りよがりかもしれないけれど。 「またいつか来るよ。そん時俺がまた何かに迷ってたら、案内をよろしくな」 どこかで聞いているだろう犬にそう言うと、早くも頭や肩に積もり始めた雪を払いながら、玉城は緩い坂を下って行った。   (了)
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