冬の犬

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森の中は、雪の降り出す前の匂いがした。 玉城(たまき)は両手をジャケットのポケットにつっこみ、枯れ葉でカサカサ鳴る小道を歩きながら、何度も身を震わせた。吐く息はどんどん濃度を増し、すっかりミルク色だ。 寒い場所も山歩きも、大の苦手だった。 昨日までは暖かかったのに、なぜよりによって今日寒波が訪れるのだろうと、自分の運の悪さを呪った。 けれどせっかくここまで登って来たのだし、引き返すのも癪だった。なにより、友人の優しさを無駄にすることになる。 玉城が今目指している神社の存在を教えてくれたのが、昨夜の中学の同窓会で久々に会った、その友人だった。 『玉城、お前もそこに行って拝んで来いよ。同じような悩みを持つ奴が、すごく楽になったって話、何度か聞いたぞ。せっかくこっち方面に来たんだし、そんなに遠くないから、明日帰る前に寄ってくるといい』 自分と同じ歳なのに、既に3人の子持ちになった友人の笑顔は恵比寿様のようで、玉城は早くも願いが叶ったような気になって何度も礼を言った。 けれど恵比寿様の『そんなに遠くない』は、けっこう遠かった。
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