和也の話

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 私は和也と顔を合わせたことがない。声だけ。チャットだけのやりとりで1年半関係が続いている。和也は歌がうまく、少し抜けているところが周囲の人間に愛された。近年当たり前になってきている生放送アプリを使うと、途端に火をあげて人間に愛された。今思えば、私自身も彼の事が好きだったと思う。社会人の彼には惹かれた高校生たちが集まってきた。人間を基本的に拒まないその姿勢は彼の「ファン」を増やしていった。  ただ、以前何度かちらつかせる本当に感じていること。それは違った。 「みんな好きが軽すぎる」 「本当は親との関係が悪くて嫌な思いをしてきたんだ」 真夜中のチャット。その当時彼は眠れなかったんだっけか。年下の私に吐き出してくれたことだ。生放送をすれば身内はたくさん来てくれるが、みんな好き好きという様が彼は苦痛だったのかもしれない。    ただ、それだけを思い出しては涙ぐむ数時間だった。  最近忙しいと思っていた。SNSの浮上率もだいぶ下がってしまって、ほとんど会話することもなくなっていたある日、久々にしたチャットで彼が打ち明けてくれたこと。 「自殺未遂してたんだ」 その言葉からどんな言葉を生み出していけばいいかわからない。私にはありがとう、話してくれてとしか言えなかった。  私は少しばかし繊細だ。だから顔も見たことのない和也のことでもこんなに気持ちが苦しくなってしまうし、別件でも胸が苦しくなっていた。吐き気を抑えて、布団に潜り込む。目をつむっても和也の声や文字などが脳裏をよぎっては消えていく。 「ああ、助けられない」 自分は非力なのだ、だからちやほやされていた時に手を握って逃げ出さなかったのだ。言葉を伝えなかったのだ。  21時。スーパー勤務の友人は仕事が終わったと友人たちのグループに一報を入れる。思えば今日はもう冬至だ。真っ暗な中、友人は10分ほど暗い道を歩いて帰るのだ。当たり前になっている日常がなんとなく哀愁を漂わせている気がしている。私はお疲れとチャットを送るとただ和也のメッセージを見つめていた。  これが12月22日の出来事である。
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