泣きたい位に残酷で

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足を踏み入れたそこは、隊員達にとって未知の世界だった。 薄暗い店内はジャズが流れる喫茶店のような様相。 しかしボトルの並ぶカウンターのブルーライトや談笑している人物達が、この店を怪しげなものにしている。 酒や煙草臭さこそないものの、どの男も厳つい髪型に派手な服装と、街で絶対すれ違いたくない風貌をしていた。 女の子がいないことは幸いだったかもしれない。 男達がこんな格好をして出入りしている店だ、女の子だって好意的な格好はしていないだろう。 完全に空気にのまれている隊員達に溜息をついて、流衣はカウンター側の空いている席を探す。 來斗に近づくにしても、ひとまずは隊員達を落ち着かせなければならない。 こんなところで倒れられるなんて迷惑でしかないと、丁度見つけたカウンター席に足を向けようとした。 「あっれ、超珍しいのがいる」 「………カズ」 流衣達よりも後から来たらしい、和雅がにやにやと見下ろしてきていた。 V字ネックのランダムパターンTシャツにファー付きフードのミリタリージャケット。 首元や指にはゴツいシルバーアクセサリーがいくつも付いていて、和雅の外見から似合ってはいるけれども、およそ学校での雰囲気からはかけ離れていた。 週末は夜の街で派手に遊んでいる。 危ないチームの頭をやっている。 噂では聞いていても実際を目にすると衝撃らしい。 隊員達は目を見開いて固まっていた。 律に会い、來斗の殺気を浴びたのにまだ驚けるとは、案外大丈夫そうである。 「何、ルイちゃんが連れてきたの?」 「藤宮様の素顔がどうしても見たいってしつこくて」 「ふーーん?」 「……」 面白い玩具でも見つけたかのような和雅の顔は昔から苦手だった。 学校での巨大な猫被りと同じくらい、薄ら寒いものを感じる。 さっさと離れようと前を向いた流衣の耳に、小さな悲鳴が届いた。 見れば、顔を真っ赤にして泣きそうになっている隊員と、その肩に腕を回して嫌な笑みを浮かべている和雅。 「折角来たんだからさぁ、ライの近く行かなきゃ意味ねぇよ?」 「……」 多分、きっと、和雅は気付いている。 隊員達がこの店に来た時点でいっぱいいっぱいになっていることを。 気付いていて、落ち着かせる間を与えないつもりだ。 流衣が探したカウンター席もいつの間に指示したのか、和雅のチームメンバーが何食わぬ顔で座っている。
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