泣きたい位に残酷で

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受け取ろうとした男を制し、カウンターへと歩いていく。 「逃げた」 「まぁまぁ。ライにとっては黒歴史だから、見逃してやれって」 「そういうことだな。で、親衛隊の皆さんからは質問ないの?」 突然和雅から話を振られ、隊員達が一斉に肩を揺らした。 質問も何も、場の雰囲気と聞かされた話を理解することでいっぱいいっぱいだ。 助けを求めようにも流衣は視線を送るだけで何も言ってはくれないし、律は元々店にいる連中の仲間らしく、この場で隊員への関心は皆無だと言ってもいい。 鋭い視線がいくつも刺さる中、何か言わなければと焦る程頭の中が真っ白になっていく。 不自然な位静まり返ったとき、ピクリと肩を揺らした幸也がポケットからスマホを取り出した。 「あ、ごめん」 着信相手を確認し話そうとした幸也だったが、耳に当てるや否や肩を竦めてスマホを耳から離した。 大袈裟とも言える反応に、周りも幸也に注目しだす。 「ちょっ……え?落ち着いてって……うん、うん…ちょっと待って」 眉を寄せ通話相手に相槌を打った幸也が振り返る。 ずいっとスマホを、戻ってきた來斗の前に差し出した。 「何」 「アヤナから。ライ兄がスマホ出ないって怒ってる」 「アヤナ?」 受け取った來斗が言葉を発するより早く、相手が捲し立ててきたらしい。 開きかけた來斗の口はそのままの形で固まった。 微かに漏れ聞こえてくる声は甲高く、半ば叫ぶように何かを話している。 「声でか過ぎ、聞き取れねぇ……あ?あぁ……へぇ。今もそこいんの」 來斗の雰囲気が一変し、周りの空気も鋭くなった。 突然の変化に隊員達が戸惑う。 「……あぁ、分かった。10分くらいで着くから、テキトーに相手しとけ」 通話を切り幸也にスマホを返す來斗を見上げ、和雅がニヤリと笑った。 「ドレッドか?」 「あぁ、残党がサクラで暴れてんだと。わざわざ俺とカズへのラブコール付きでな」 「丁度良いわ、逃げられた分こっちもスッキリしてなかったからな。律」 「誠也には連絡した。直でサクラに向かうって」 俄かに騒がしくなる中、和雅と律が立ち上がった。 先程まで隊員をからかっていた雰囲気は消え、口元に笑みは湛えていても纏う空気は獰猛なものになっている。
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