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何が起こっているのか分からない。
けれど來斗達が交わしている会話が、決して穏やかな内容でないことだけは隊員達にも理解できた。
店の前で幸也が落とした、あの無残な姿になっていた巨体が脳裏に浮かぶ。
同時に、初めて浴びた來斗の殺気も思い出し、恐怖で身体が震えだした。
「……今度は逃がすなよ、キョウ」
いつの間に来ていたのか、和雅の近くに隊員も知っている赤髪の男が立っていた。
來斗が声をかけたその男は、目を見開く隊員を一瞥しただけで來斗へと向き直る。
「分かってる。中に入る人数は用意した。外はセイに任せてるぜ」
「オーケイオーケイ。んじゃま、狩りに行きますかね」
和雅の一声で周りにいた男達がぞろぞろと店を出て行く。
慌てて隊員が流衣を見るも、座ったまま微動だにしていなかった。
「た、隊長、」
「チームのメンバーでもないし、そもそも僕喧嘩しないから行く必要なんてないでしょ」
言外に余計なことに首を突っ込むなと言っている気がした。
ソファの向こうではフードを被り直した幸也が來斗と何かを話している。
小声で話しているからなのか喧騒の中では聞き取れないけれど、至近距離で交わしている姿に他の誰もが立ち入れない親密さが伺えた。
來斗が常に側に置いているのは幸也。
來斗が自分から動くのも、幸也に関してだけ。
ここは隊員達にとって知らない世界。
和雅や律、來斗も、幸也も身を置いているけれども、隊員達には踏み込めない世界。
分かっている。
自分達が場違いだと、分かっているけど。
隊員達の知らない顔をする來斗が、もっと遠くなってしまうのが嫌だった。
隊員達が何もできないこの場で、当たり前のように隣にいる幸也が妬ましいと思った。
「っあの、藤宮様」
幸也を伴って出て行こうとする來斗を呼び止める。
振り返った瞳の冷たさに一瞬怯むも、意を決して声を上げた。
「僕達も、連れて行ってくださいっ」
「はっ!?」
ぎょっとしたのは流衣で、立ち上がった衝撃にグラスが倒れるのも構わず隊員達の前に立ち塞がった。
「何馬鹿なこと言ってんの、死にたい訳?」
「、だって、今から行くところが藤宮様達の関わってる世界なら、そこを見なきゃ意味ないじゃないですか」
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