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部屋にはテーブルと背もたれのない椅子が一脚、ありました。
そこに誰かが斜めに座り
ペンを片手に広げたノートを見つめています。
何か書き物をしているようでした。
私はメガネのフレームをあげ
その人物に注視しました。
眉間に皺をよせ、目を細め――
そして次の瞬間、目を見開きました。
「て、店長!?」
私は思わず後退りしました。
だって、ですよ。
私の知る、あの穏やかな店長が
まるでどこぞの魔法使いよろしく
乳白色のローブに身を包んで
この世界の主のように
風景に溶け込んでいたんですから!
店長? らしきそのお方は
ぶつぶつと何かを言うと
たなごころを上に広げました。
音もなく煙が巻き上がって
ひとつのバラの花が現れました。
彼女はそれをテーブルの端にそっと置くと
私の方に顔を向けました。
「カナちゃんね」
そうです、という言葉は心の中だけで言ったのに
店長は返事を受け取った顔をしていました。
「この扉の奥は見せたくなかったの。
だからいつも鍵をかけておいたんだけれど。
私のドジのせいで、来れてしまったのね」
店長は椅子から腰をあげると、ゆっくりと
こちらに近づいて来ます。
私は足が固まって、前にも後ろにも進めませんでした。
その床しか無い部屋の端にくると
龍が顔を上げてうやうやしく店長の足元に
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