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頭を差し出しました。
「ありがとう、オルフェ」
店長は龍の頭に優しく足を下ろしました。
階段を降りるように首をつたい
ゆるやかに私のいる草原に立ちました。
「カナちゃん、花と妖精の世界にようこそ」
店長はけれん味のある仕草で、周囲に向けて両腕を広げます。
「でもね。急で悪いんだけれど…
ここを見てしまったら、あなたはもう
私たちのこと、忘れなくてはいけないの」
「え…」
私は狐につままれたように
店長の言葉をただ飲み込んでいました。
「もちろん、お店のことも」
ドキッとする。
夢のような世界に浮いていた気持ちが
一気に現実に落ちてきました。
「ま、待って下さい。私、知らなくて…鍵が開いていたなんて…
そんな気はなかったんです! だって物音が…」
「ごめんなさい、カナちゃん」
すでに決定した事実を告げるような
店長の物言いに
私は少し怒っていたみたいです。
「だ、だって、ひどいですよ、店長!
こんな…こんな事を
店員の私に、だまってるなんて!」
店長は言い返しもせず、複雑な顔で私を見返していました。
「ようやく、仕事にも慣れて、色々分かってきたのに!
でもまだまだ店長に追いつけなくって!
だから、いつか認めてもらいたいって
頑張ってきたのに!」
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