3. 秘密の扉

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私は、この美味しい液体の入ったカップをじっと見つめて ゆっくりと残りを頂いてから、深い息を漏らしました。 何が「秘密」なんだか…まじめに考えた私が馬鹿らしい。 結局、私は店長の足元にもたどり着いていないんだな。 「店長…寄り合い…行くはずだったのに、ゴメンナサイ」 私は痛む頭を少しだけ傾けました。 「何言ってるの。大事なのはカナちゃんよ」 それを聞いた途端、何かこみ上げるものがありました。 私は気持ちが言葉にならず、黙っていたので 何も言えなかったはずでした。 なのに、その次の台詞は、私自身がまったく考えていない 予想もしない言葉でした。 「私、このお店にいてもいい人間ですか?」 はっとして口を押さえたけれど、遅かった。 何言ってるの、私? ただ黙って微笑んで。店長はどこかで見たことのある 笑顔を見せて、私に語りました。 「カナちゃんだから。ここにいて欲しいのよ」 あ… 思い出した…この微笑みだ。 私は彼女に釘付けになりました。 シシリーに面接をしに来たあの日。 出迎えた店長が、初対面の私をひと目見るなり 笑いかけてくれた、その時の表情。 これを見て私はここで働こうって思ったんだ。 忘れてないよ。少し遠のいていただけ。 「大丈夫? 他にどこか痛むの?」 涙ぐむ私に驚く店長。     
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