白の選択

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 ────────ほんの少し前。 『お嬢様、本当に(うつく)しゅうございます。まるで、若き日の奥様(セレスティーヌ様)を見ているようです。奥様と旦那様が生きていらしたら、こんな結婚やめるようにと言ったはずです。ばあやは悲しくて、悲しくて……』 『ばあや、もう泣かないで。伯爵様はとてもお優しい方よ』 『なにを言ってるんですか、お嬢様より30も年上なんですよ! だいたい、旦那様が残した財産を食い(つぶ)したのは後妻のアンリエット様とその連れ子のお嬢様方なのに。旦那様が亡くなった途端、それまでお(しと)やかだったアンリエット様が手のひらを返したように別人に……、お嬢様を、お嬢様を──────! あろうことか、お嬢様に召使いのまね事までさせ、仕舞いには伯爵様に売りつけようとは!』 『ばあや、継母(お母さま)のことを悪く思わないで。それまで(ふさ)ぎがちだったお父さまを救い出してくれたのは、継母(お母さま)なのだから。お父さまにとって、継母(お母さま)は良き妻だった。それに、この結婚もそう悪くはないわ。私が伯爵様のもとに嫁ぐことで、膨れ上がった借金も、屋敷を手放すこともなくなるのだから』 『それでも、ばあやはこの結婚には賛成できません。お嬢様が不憫(ふびん)で、不憫で……。代われるものなら、このばあやが……』  私のために涙を流す()()()をなだめるように、ぎゅっと抱きしめる。 『ありがとう、ばあや。ばあやは私の唯一の家族よ』 『そんな滅相もございません』  ばあやは、その後ずっと“旦那様と奥様に顔向けができない”と泣きながら私に訴えかけた。  この選択が正しかったのかどうか、お母さまも着た、真っ白なドレスを身にまとえばわかるかもしれないと、そう思ったけど──────……。
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