15人が本棚に入れています
本棚に追加
────────ほんの少し前。
『お嬢様、本当に美しゅうございます。まるで、若き日の奥様を見ているようです。奥様と旦那様が生きていらしたら、こんな結婚やめるようにと言ったはずです。ばあやは悲しくて、悲しくて……』
『ばあや、もう泣かないで。伯爵様はとてもお優しい方よ』
『なにを言ってるんですか、お嬢様より30も年上なんですよ! だいたい、旦那様が残した財産を食い潰したのは後妻のアンリエット様とその連れ子のお嬢様方なのに。旦那様が亡くなった途端、それまでお淑やかだったアンリエット様が手のひらを返したように別人に……、お嬢様を、お嬢様を──────! あろうことか、お嬢様に召使いのまね事までさせ、仕舞いには伯爵様に売りつけようとは!』
『ばあや、継母のことを悪く思わないで。それまで塞ぎがちだったお父さまを救い出してくれたのは、継母なのだから。お父さまにとって、継母は良き妻だった。それに、この結婚もそう悪くはないわ。私が伯爵様のもとに嫁ぐことで、膨れ上がった借金も、屋敷を手放すこともなくなるのだから』
『それでも、ばあやはこの結婚には賛成できません。お嬢様が不憫で、不憫で……。代われるものなら、このばあやが……』
私のために涙を流すばあやをなだめるように、ぎゅっと抱きしめる。
『ありがとう、ばあや。ばあやは私の唯一の家族よ』
『そんな滅相もございません』
ばあやは、その後ずっと“旦那様と奥様に顔向けができない”と泣きながら私に訴えかけた。
この選択が正しかったのかどうか、お母さまも着た、真っ白なドレスを身にまとえばわかるかもしれないと、そう思ったけど──────……。
最初のコメントを投稿しよう!