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「アニエス?」
夫となる伯爵様が、私に呼び掛ける。
きっと伯爵様は約束を守ってくれるでしょう。
これからも、お母さまとお姉さまたちの変わりのない生活を。
アニエス、本当にこれでいいの?
この結婚も、今までだって、お母さまたちに口答えすることなんて許されなかった。
きっとこの先も、私はお母さまたちの顔色をうかがって生きていくんだわ。
愛する人に思いを伝えられずに、愛する人の目の前で別の愛を誓わされるなんて…………!
「わ、私は……」
神父様を見上げる。
ああ、神様。
この思いは成就することはないとわかっていながら、私は来る日も来る日も教会へ通っていました。
あなたに会うだけで嫌なことも忘れられる。
暗闇の中にいた私に一筋の光を差し込んでくれたのは、あなた。
「アニエス、さあ“イエス”を」
「私にまた鞭を握らせる気?」
「アニエス、あなたを誇りに思うわ」
お母さまたちが口々に言う。
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