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香りにつられて鳴るお腹に、起きてから何も口にしていないことに気づく。思わずポケットからスマホを取り出しマップを開いた。ここから約30分。折角外に出たついでに、空っぽの胃袋を満たすため私はそのパン屋さんへ行ってみることにした。 街中から少し離れた場所にあるそこは、木で造られた温かさを感じる外観だった。いい雰囲気だなと期待が高まり中へ入る。 いらっしゃいませと優しい笑みを浮かべる女性に迎えられながら店内を見渡すと、季節限定のものから定番のものまで、とても美味しそうなパンが所狭しと並んでいた。 焼きたてのパンの香りに包まれながら思い出す。小さい頃、父がよく作ってくれていた熱々の食パンを1人でまるごと1斤食べてしまうほど好きだったなと懐かしい気持ちに浸りながら、ゆっくり選ぶ。…至福の時間だ。 あれこれと悩んだ末に、ただ今焼きたてのポップがついた食パンとあんぱんを買った私はお店の奥にあるイートインスペースで食べることにした。サービスの珈琲1杯と共にパンを口に運ぶ。美味しい。専門的なことは分からないが、焼きたてのパンの香りともっちりとした食感に感嘆の声が漏れた。これは毎日でも食べたい。 選んでいる時間もこうして食べている時間も幸せだ。久しぶりに乾いた心が満たされた気がした。特別に変わったところがあるお店ではないけれど、癒される空間。また来ようと思えるお店を初めて見つけた気がする。 今日もまた1時間かけて自転車を走らせる。心を満たす美味しいパンのぬくもりをもとめて。
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