予報は、嵐

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 浅葱先生が落ち込むいつかに足早に寄ってきた。慌ただしげな気配に、一来が顔をあげて浅葱先生を見る……。  「あっ……」と小さく声をあげ、反射的に空中を手で払う仕草をした。  どうやら一来は気が付いたようだ。浅葱先生が影だということに。そしてすでに影羽虫にたかられていることに。  「残念だが、出演はやめた方がいいかもしれない。君たちの安全を考えると」  一来の強ばった顔には気がづかずに、浅葱先生は言った。主人は浅葱先生を真っすぐに見て言い放った。  「コソコソ影に隠れるなんて、まっぴらよ。炎上するならすればいい」  「えーっ! アイラちゃん、本気なの? 私もやめた方がいいと思うけど」  いつかは浅葱先生に一歩近づく。体の周りを飛び交う黒い羽虫が見えていないのだ。羽虫がいつかの周りを取り囲み、一来があわてて手を振り回して追い払おうとした。しかし羽虫のように見えてはいるが、影の千切れたものだ。霧の中で手を振りまわしているようなもので、なんの手ごたえもなく影羽虫は一来をからかうように飛び交っている。
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