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「うわっ」
顔の周りを影羽虫に飛び回られて、一来はイヤイヤするように顔を横に激しく振る。
「私の前でふざけたマネは許さない」主人が鋭く私の名を呼ぶ。「黒炎!」
私がふと息を吐き空気の渦を巻き起こすと、それだけで影羽虫は霧散した。
『他愛のない……』
もともと好奇心で近くに来たものにたかっただけで、影羽虫に攻撃する意図はなかったからだろうが、あまりの手ごたえのなさが少々物足りない。力を持て余した小さな風が足元に渦まく。
「ありがと、フラーミィ」
ふうっと息をついて、一来がお礼を言った。小さな竜巻がようやく和らいで消えた。
『どういたしまして』
胸に手をあてて、優雅に腰を折る。
「ふ、フラーミィ! 人の姿のままじゃない!」
いつかが私を背中にかばった。私の方がずっと背が高いので丸見えなのだが、気持ちはありがたく受け取っておこう。
『こちらも浅葱先生の影ですから問題ありませんよ、いつか』
お礼がわりに説明すると、「ええっ! うそっ?!」と驚きで空いた口を手で覆う。こちらも予想通りの反応で面白い。
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