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「申し訳ない」浅葱先生の影が謝る。そして「私の千切れた影では、止められなかったんだ」と言って、自分の周りに飛び交う影羽虫を目で追いながら説明し始めた。
モンスターママは見張りについていた影羽虫が見つめる中、口元にいやらしい笑みを貼りつけ、ポスターの画像を加工していたという。けして得意ではないのだろう。テーブル毎に仕切られているコーヒーチェーン店に居座り、マグカップに入ったカフェオレがすっかり冷めて、カップの内側にべったり跡がついても、スマートフォンをいじり続けていたという。
「つまり、SNSに偽画像をアップしたのは……」
「そう。あのモンスターママだ。すまない。私への嫌がらせなんだ」
浅葱先生が深く頭を下げる。
「あ、そう。ふうん……」
主人の目がすわっている。ゆっくりと足を一歩踏み出すと、黒いドレスが翻り、胸元の赤と黒で出来た金属製の鱗が、チャリチャリと小さな音を立てた。
「じゃあ行くわよ」
「アイラちゃん? 先生の話、聞いてた?」いつかが後を追う。
「もちろん、聞いていたわよ」
主人はドアの所で立ち止まり、振り返りもせずに言う。
「かぁごめ、かごめ……。白い精命マナと黒い精命マナをいっぱいに、表と裏を見合わせりゃ、籠の中の鳥と影とが入れ替わる……」
浅葱先生の影が、表情を消した顔で主人の背中を見つめている。
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