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アイラの歌声が高まると共に、スポットライトが点きステージを照らした。
(おや、あの人は……)
ふと視線がひかれる。
ライトのせいで観客席はホワイトアウトし、アイラといつかにはほとんど何も見えないだろうが、ドラムのスポットライトは私を隠すために外されているせいで、赤いワンピースが観客席の一番後ろにいるのが見えた。講堂は人であふれているが、観客席が階段状になっているので赤い色は嫌でも目に飛び込んでくる。周囲の人間はほとんどが黒づくめなのだからなおさらだ。
『一来、私はちょっと所用が出来ましたので、失礼いたします』
「へ? ええーっ! こ、困るよ、フラーミィ! 行かないでよ!」
慌てた一来が泣き声で訴えてきたが、ドラムを叩いているので、私にしがみ付いて止めることはできない。
『毎日私と演奏していたのですから、体が覚えていますよ。大丈夫ですよ、一来』
ぽんぽんと腕を叩いて囁き、一来の手を離す。影に戻ると墨で観客を刷いていくように、滑っていく。
ドラムの音の変化に気が付いたいつかのギターが一瞬、先に走る。そのままドラムへと視線を走らせると、私がいないこと気がついたようだ。頬がキュッと引き締まった。すぐにリズムを取り戻すと逆にドラムをリードする。
主人が歌いながらいつかに歩み寄り肩に手をかけたのを確認してから、私はゆっくりと紅霧に声をかけた。
『何か御用ですか?』
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