262人が本棚に入れています
本棚に追加
/311ページ
『離してください。先ほど、浅葱先生はもう用済みだと言いましたよね』
「離してあげてもいいよ。だけど一つ教えておくれよ」紅霧はステージの方を顎でしゃくる。「ポスターに付いていた血。あれはあの子のなんだろう?」
あの子、というのが一来を指していることはお互いにはっきりわかっていた。紅霧と目の中を探り合う。私が返答するまでの0.5秒の間を器用につかまえて、紅霧は笑い出した。喉を震わせて、くぐもった笑い声を漏らす。
「ふうん……。わかったよ」
掴まれた手首に逆方向の力が込められると、次の瞬間には浅葱先生の本体が引きずり出されていた。ドサッと音を立てて、床に体が落ちる。
手首に感じていた圧力から解放されると、紅霧は笑い声だけを残して消えていた。紅霧の手の感触が残る手首を振りながら、音響設備の方を仰ぎ見る。
(同じ場所に浅葱先生の本体と影の両方がいてはまずい……)
しかし浅葱先生の影はすでにそこにいなかった。本体が鏡から出たことに気が付いて、移動したのだろう。しかし本体が鏡から出てしまった以上、精命の供給は得られない。影はすぐに力を失ってしまう。
最初のコメントを投稿しよう!