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浅葱先生も私の視線を追いかけて、ステージで歌う主人を見る。ギターを弾くいつかを、ドラムを叩く一来を見る。
浅葱先生は苦しげに顔をゆがめ、「教師を辞める、その方があの子たちのためにもいいんだろうか……」と、声を絞り出した。
『生徒のためにいいかどうかは、分かりませんが、辞めるか辞めないかは、浅葱先生の選択肢です。どちらでも選べますよ』
浅葱先生は懐かしいアルバムの写真でも眺めるような優しい目でステージを見る。穏やかな表情だが……、その目の中に揺らいでいた炎は消えてしまったのだろうか?
身体中で歌声を響かせる主人を見ていたら、つい私らしくもない言葉を続けてしまった。
『ですが、影と交代してでも生徒を脅かすものと戦いたい、そう思ったのではないですか?』
浅葱先生は唇を噛みしめた。
「影になっても……、私のせいで加工された画像が流れてしまった……。守れなかった……」
浅葱先生の背中が丸くなり、背が小さくなる。瞼をなんどもしばたく。後悔なのか無力さへの絶望なのか……? 判別がつかない。
人間には色々な感情があるものだ、と感心してしまう。
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