『 In my Fire Wallー心の鎧ー』

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 「いえ、あの……」  浅葱先生は助けを求めるような視線を送ってくるが、それは私の仕事ではない。浅葱先生が鏡から出てきた時点で、私の仕事は終わっているのだ。  ……が、興味をひかれるのでそのまま見学を決め込んだ。  アイラのデスボイスが響き渡る。怒りや悲しみ、不浄さ、痛み……を含んだ歌声が、見えない(ほのお)となって浅葱先生を焚きつける。  浅葱先生は銀縁眼鏡をギュっと強く押し上げた。脚を踏んばり、顔を上げて、モンスターママを真っすぐに見る。  その浅葱先生の目のまえに、スマートフォンの画面がさらに突き付けられる。数秒の間、浅葱先生とモンスターママがにらみ合うように対峙した。  「あれ……? この画像は……」ふいに浅葱先生が突き付けられたスマートフォンに手を伸ばした。「ちょっとお借りしていいですか?」  「は? ええ、まあ。いいですけど」  意表をつかれたのか、モンスターママは素直にスマートフォンを手渡した。  浅葱先生は、画像を指で押し広げて拡大した。せわしないまばたきをしながら、瞳が画像のあちこちを移動しては、時折視線を定めて止まる。口の中で何か呟き、スマートフォンを手の中で何度も角度を変えて見る。  「あの、もういいでしょう。返してください」
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