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闇の中へ
「黒炎!」
宴が終焉を迎え、主人が呼ぶ。私は影となり主人の元に滑り寄った。
視界の端に浅葱先生が、消しゴムを持った左手を握りしめている姿がちらりと入り込み、その姿に笑みがもれたのは一来の影響だろうか?
サインや握手、その他もろもろを求めてステージに人の波が押し寄せてきた。舞台裏から逃げ出した主人が、「遅いわよ、フラーミィ!」と走りながら文句を言う。
「すみません、アイラ」
主人の手を引き、屋上まで駆け上がった。一来といつかの階段を登る荒い息づかいが、後ろから聞こえる。追いかけてくる黒い服の集団が階段を揺らす。
外はもう夜の帳が下りている。影の時間だ。
私は主人を抱きかかえると、屋上から跳んだ。
同時に屋上の壁からキラッと光を放って細い糸が伸び、小さな蜘蛛が主人の肩に飛び乗った。
「ひゃっ」と驚いた声の後に、「しっかり掴まっているのよ!」と嬉しそうな声が響く。
「ズルい! 僕たちも連れて行ってよ!」
闇の中に飛び去る私の背中に、屋上に置き去りにした一来の叫ぶ声と、いつかの「お姫様抱っこー!」という高い悲鳴のような声が追いかけてきた。
主人が楽しそうに笑い出した。
『あまり動くと落ちてしまいますよ、アイラ』
「あら。落っことしたりしたら、お仕置きだからね、フラーミィ!」
主人の青い瞳がきらりと光った。
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