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「見てごらんなさいよ、この可愛い目!」
主人は小さな蜘蛛に視線を戻し、再び見つめあう。主人の言う通り、確かにクリクリと大きな瞳は丸く真っ黒で可愛らしい。白茶の霜降り状の毛に白い模様が弓形に入り、人の良いおじいさんのあごひげのようにも見える。
「マミジロハエトリっていう種類なのよ。ねっ、マミちゃん」
いつかのこわばった表情を見て、主人はどうしたのだろう、というように首をかしげる。
「ああ! そうか、白い模様があごひげみたいに見えるからオスだと思ったのね? こう見えてもこの子はメスなの。だからマミちゃん、でいいのよ」
主人はマミジロハエトリの画像を「ほら」と自慢げにスマートフォンに表示してみせた。さらに画像を指で押し広げ、スマートフォンの画面いっぱいに表示していつかの顔に突き付ける。
「そんなに遠くからじゃ、写真が見えないでしょう」
「だ、大丈夫、大丈夫! 見えるから!」
いつかは悲鳴をあげるように言うと、無理やり唇をもち上げて歯を見せた。見ようによっては笑っているようにも見える、かもしれない。怯えた目と食いしばった歯に目をつぶれば、だが。
「そう? まあ、いいわ。それで何の用?」
「なんだっけ……」
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