『秘密はしおり糸を辿って』

1/11

262人が本棚に入れています
本棚に追加
/311ページ

『秘密はしおり糸を辿って』

 放課後、主人といつかは一来のあとを追っていた。二人が歩いている道路は、車道と歩道が白いラインで仕切られているアスファルトだ。その道の先に一来の姿は見えない。  道の両脇には和風、洋風、プロバンス風と統一感のない外観の住宅が並んでいて、バラバラな印象なのがかえって個性を打ち消している。どこにでもありそうな道に目印も見当たらないにもかかわらず、二人は迷うことなく進んでいく。  しばらくして、ふいに主人がピタリと歩みを止めた。    「あれ? 途切れてる」  いつかが主人の手から垂れて揺れている糸を触る。  「何かがこすれて、糸が切れたのね。続きは……、あそこね。キラキラしている」  主人が指さした先には、よほど気を付けなければ見えない細い糸が伸びていた。  「マミちゃん、やるねえ」  いつかが感嘆の声を漏らすと、主人が唇の片方の端を持ち上げ、胸を反らした。  「歩くときに出す糸の事を、しおり糸っていうんだって。マミちゃんのすごさ、いつかにもようやく分かった? どう? 一来にくっついて、糸を辿れるように残しておいてくれるなんて、マミちゃんにしかできないわよ。 見直したでしょ?」  主人はにわか仕込みの知識を講釈して、いつかにしつこく同意を求める。  「うん、まあ……」
/311ページ

最初のコメントを投稿しよう!

262人が本棚に入れています
本棚に追加