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「アイラちゃんはコーラ、一来君は微糖のカフェオレ、フラーミィはミネラルウォーターっと」
なんとか公園の中の小高い丘に設置されている東屋に場所を移したものの、主人と一来の間には未だ不穏な空気が漂っている。沈黙を埋めるように、いつかが自動販売機で買ってきたジュースを順番に手渡していく。アイラと一来は、東屋にコの字型に備え付けられているベンチの角に座っているので、隣とはいえ一来とは膝が九十度向き合う形になっている。
いつかが最後に手に残っている自分用のミルクティーを片手に、木のベンチの端に座ると、天井から蜘蛛のマミが糸からするすると糸を伸ばしていつかの目の前に降りてきた。東屋には屋根はあるが壁はないのだ。
「ウギャッ!」とっさに手で口を押えて悲鳴を押し戻し、「マミちゃん……が好きな物、分からなかったから……」
と蜘蛛にジュースを買ってこなかった言い訳を口にする。そしてかろうじてクモに目の焦点を合わせずに愛想笑いを浮かべることに成功した。
「大丈夫よ。まみちゃんは巣を張らないで獲物を捕まえる、天性のハンターなのよ。でもそうだった、お礼を言うのを忘れていた。ありがとう、マミちゃん」
主人は素早く髪を一本切ると、マミちゃんに差し出した。あっという間に蜘蛛の影が主人の手に落ちると髪をさらっていく。
マミちゃんが丸くてつぶらな、おそらくは感謝の瞳で主人を見つめると、主人の機嫌はかなり回復したようだ。
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