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柔らかい表情をしてはいるが、この一年で桐子はすっかり力を落としてしまった。
主人はその原因を紅霧だと思っているようだったが、紅霧が精命を吸い取ったので力を落としてしまったのではないかと言ったら桐子が悲しむから、これも聞けずにいるのだろう。会話のはしばしに、桐子が紅霧を信じ切っているということがいつもにじんでいる。
「ねえ、おばあちゃん。私が小さい頃のこと、覚えている?」
「もちろんさ。鏡は映したモノを記憶する。ましてそれが可愛い私の孫ならなおさら、忘れることはないよ」
桐子は自分を鏡になぞらえて、おどけて答えた。
「そう……。あのね、黒炎がまだいなかった頃、だれか……いなかった? 白い襟の黒っぽいワンピースの……」
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