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「ああ、それは紅だね」桐子は目を細め、急に五歳ほど若返ったように話し出した。「紅を覚えているのかい? 黒炎が来る前の、ほんの一時のことだったのに」
「忘れていたの。だけど……、ええっと。似たようなワンピースを着ている人を見てね、思いだしたのよ。そう……、あのお姉さんは紅霧だったの……」
「アイラはお姉さん、って呼んでいたっけね。私は鏡から出られないから、紅にアイラの遊び相手をするように頼んでいたんだよ。紅も嫌がるフリをしていたけど、アイラと遊ぶのを楽しんでいたみたいだね。だけどそれにしたってアイラには寂しい思いをさせただろうね」
「平気。おばあちゃんがいてくれたし……。お父さんはピュアスカイエアラインの機長なんだから、いつも空の上なのは仕方ないと分かってた。お母さんも慣れない日本に来たばかりで、余裕がなかったしね」
主人は思い出の中に飛び込んでいくように、目を瞑った。
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