桐子の昔話

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 「制服姿のパパ、かっこよかったな。翼のデザインの金色タイピン、袖の金色の刺繍。黒いレザーのアタッシュケースを持って、日本に戻ってきたばかりのパパが幼稚園に迎えに来たりすると、いじめっ子達も口をポカンと開けて見惚れていたよ!」  「そうかい……?」  「うん。日本語はよく分からないし、金髪に青い目のあからさまな外国人の容姿のせいもあって、友達も出来なかったけど……、お姉さんのおかげで寂しくはなかった……な」  現在(いま)の紅霧を思い出したのだろう。勢いよく話していたアイラの声が急に小さくなった。それを桐子は当時の子供同士の(いさか)いを主人が思い出したと誤解したのだろう。気遣わしげにアイラを見ながら言った。  「この辺は保守的な地域だから、当時はまだ外国人って珍しかったんだよ。いまなら違ったかもしれないけれど。悪かったねぇ……」  「おばあちゃんのせいじゃない。誰のせいかって言ったら……」  主人は誰かを批判する言葉を飲み込み、そのかわりにふと思いだしたことを口にした。  「そういえば……、名前のせいだってお姉さんに言ったことがあったっけ。だからウィスハートの名前が嫌い、お父さんが家も土地もすべて売ることになったのは、名前のせいだって」
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