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「急に銀行に住宅ローンの支払いを求められた領内の人たちが、大勢お父さんに助けを求めてきたらしいね」
「大昔は領主だったかもしれないけど……。いくら名にかけて頼まれたからと言って、全ての財産をなげうって、他人を助ける必要なんてないのよ。それでお母さんと私が国を離れて、日本に来なきゃいけないなんて、ひどいって。日本に来たばかりの頃に、お姉さんに泣いて訴えたことがあった」
「あれはひどい金融政策だったらしいね……」
「パパはいつも『ウィスハートはwith heart 人を助けて寄りそいなさい』って言っているよね。『ウィスハートはwith heart』そんなの知ったことかって思っていたけど……」
そう言って、ふいに主人は黙り込んだ。
「アイラが泣いて訴えて。それで紅は何て言ったの?」
桐子が話を引き戻すと、主人は笑い出した。理由をまだ聞いていないのに桐子も一緒に笑った。紅霧が言いそうな事が思い浮かんだのだろう。
「あのね、領内の人を私がとっちめてやる! ってすごく怒っていた。海の向こうなのよ、って言ったら、泳いでいくから大丈夫だ、って息まいて。だからお姉さんがいなくなったらアイラはどうしたらいいの? ってスカートを引っ張ったの。そしたらひどく困った顔をしていたっけ」
「紅らしいねぇ。あの子は情に厚いの」
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