桐子の昔話

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 かーごめ、かごめ、白い精命と黒い精命をいっぱいに……。この歌を歌って人間を鏡に誘い込む紅霧は、桐子との入れ替わりを目論んでいるのは間違いない。  では情に厚い紅霧がなぜ、主人であるはずの桐子と入れ替わろうとしているのか? 桐子の方はこんなにも紅霧に思いを残しているというのに、だ。  主人はどこか切なげに語る祖母を見つめている。  幼かった主人が、私と入れ代わるように姿を消した「お姉さん」を忘れてしまったのは無理はない。そして今、桐子と語り合い、記憶の中に鮮やかに蘇ってきた「お姉さん」と、いつかや浅葱先生を鏡に閉じ込め黒い精命(マナ)を集めていた紅霧の姿が重なり合わず、戸惑っているのだろう。  優しく情に厚い「お姉さん」と敵と認識した「紅霧」はどちらが本当の姿なのだろうか?  「紅はね……」と思い出を語る桐子の声が懐かしそうで優しい。  「お姉さんは、黒炎(くろめほむら)のように、昔からおばあちゃんから離れて、自由に動けたの?」  桐子の話をさえぎるように主人が聞く。  「黒炎は特別さ。紅が自由に動けるのは、私が鏡に入っている時と、精命をあげた時だけ。話をするくらいのことはいつでも出来たけれどね」  「でも……、他の人の影は話したりもしないよね?」
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