桐子の昔話

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 「さあ、それじゃあ、続けるよ。湖の精命の水を飲んだ女戦士の体には、精命が満ちるようになり、影を操ることが出来るようになった。この女戦士が私達の始祖なんだよ。  そして彼女は白と黒の鏡の力を使い戦を収めた。後に鏡を水の鬼神に返そうとしたが、不思議な湖には辿り着けなかった。だからまだ精命の水のお代には足りないのだと思い、影を従えて生きるようになった。  そうしてね、女戦士が死んだあとも一世代おきに能力と鏡は引き継がれてきたんだよ」  桐子の昔語りを聞いたせいだろうか? 初めて主人に話しかけた時の事がふいに思い出された。あの時、まだ幼かった主人は独りぼっちで地面に石で絵を描いていた。  『髪をくれたら、一緒に遊んであげますよ』と言うと、迷わず髪を一本、引き抜いて差し出した。桐子が紅霧と話している所も見ていたので、怖さはなかったのだろう。  マナがなくなるたび髪を引き抜いていたが、そのうちにそれも面倒になり桐子のハサミを持ちだしてきた。  夕方になって『また明日』と言ったら、主人はほろほろ泣き出して、髪を……。  (ああ、これはいけませんね)  思い出に流されそうになり、私は首を振って物思いを振り払った。  ほのぼのしていると足をすくわれそうな香りが漂ってきたのだ。
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