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いつかの家で会うまで、私は紅霧に会ったことはなかった。つまり私が召喚されるのと入れ替わるようにして、紅霧は姿を消したということだ。私の金色の瞳が秘密に手を伸ばすように光る。
紅霧は無言のまま紅い瞳で私の視線を跳ね返す。秘密を譲り渡すつもりはないらしい。
『一来に手を出すのは止めていただけませんか』
紅霧は紅い花びらのような舌を唇の端からちろりと出した。
「おやおや。それで取引のつもりかい? 黒炎ともあろう者が、かわりの報酬も魅力もない提案をするなんて、名折れじゃないか。でもまあ、こっちにはこっちの都合ってものがあるんだから、どんな条件だったとしても答えは同じか」
じゃあね、ブラックフラーミィ、という声を後に残し、するりと飾り窓の隙間から出て行った。
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