桐子の昔話

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 紅霧の様子では、一来にちょっかいを出すのをやめるつもりはないらしい。  『仕方ありませんね。……マミ!』  パチン、と指を鳴らして小さな蜘蛛を呼び寄せると、一言二言話してから窓を開け放ちジャスミンの風に乗せて放った。蜘蛛は数本の糸を出してぶら下がり、ふわりとタンポポの綿毛のように風に乗って飛んでいった。  マミを見送ると、私は紅霧が出てきた鏡に手を押し当ててみた。鏡の表面は固いままだ。  (ふむ。しかし紅霧は鏡から出て来たのですから……)   鏡に手を押し当てたまま影になってみると、とぷんというかすかな音と共に手が鏡に沈んだ。  顔を鏡の中に突っ込むと、そこには真っ暗な空間が広がっていて、見回すと離れた場所に窓のようなものがあり光が漏れている。私は鏡の中に入り込み、光に向かって歩いた。今度は逆に窓から外へ出てみると、窓と見えたのは風呂場の鏡だった。鏡の中は近くの鏡に通じる通路になっているらしい。  つまり私が知らないことを紅霧が知っていたというわけだ。そう思うと口元に笑みが浮かび上がってくる。  対峙する相手は手強い方が面白い。  
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