『血の色は、何色?』

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 『ええ、わかっております。少々、動揺してしまったようです』  コホンと咳払いをする。 『さて。それでは私たちのもう一人の友人について、検討いたしましょう』  高い幼女の声はどうも締まらないので、姿はちびアイラのままだが、声は私本来の声にもどした。  「まず、わかっていることは、一来は自分で指を切って血を垂らしたということ』  主人が人差し指を振りながら言う。  『一来にはそうしたいと思う理由があったのでしょうね』  「だけど一来君は鏡に入っていない、これはどういうことかな?」  『一来自身が、影に何かをしてもらいたいという訳ではないのでしょう』  「ねえ、フラーミィ、誰も影と入れ替わっていないなら、空っぽの鏡に精命(マナ)を吹き込む意味はあるの?」  いつかの疑問はもっともだ。もしも精命を注げばいいだけなら、そもそも人と影を入れ替える手間をかける必要はないのだ。  『いいえ。精命は人から切り離されると、いずれ消えてしまうのです。仮に鏡に精命だけを入れても、何にもならないでしょう。精命は究極の生もの、鮮度が命なのです……!』  両手の小さなこぶしを顎の下で握り締めて熱弁をふるう。精命を語らせたら私の右に出る者はいないだろう。  気が付くと主人はため息をつき、いつかは口を半分開けて動きを止めていた。私がコホン、と咳払いをすると、いつかが「……あー、そう、なの?」と言ってそっと両手で頭を抱えた。それから唇の両端を無理やり持ち上げ、私から目をそらすと、「あ、それじゃあ白い精命と黒い精命でいっぱいに、っていうのは?」と話題をすり替えた。  (失礼な)  まるで私がいつでも精命を狙っているといいたげな態度に少々ムッとする。しかし執事たるもの、不快感を態度に出すようでは失格だ。にっこりと微笑んで答える。  
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