『鏡の中の少女』

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『鏡の中の少女』

 中央公園のはずれには、壊れた噴水がある。水のない池のふちにはつる草が這い、ひび割れたコンクリートを浸食している。公園で遊ぶ子供の笑い声も、井戸端会議にいそしむ母親達の声も聞こえない。重なり合う葉が光を遮って薄暗く、いつかはざわめくうっそうと繁る木々を怯えた目で見上げている。  「随分寂しいところだね……」  いつかが声をひそめてささやく。  視線の先にいる、噴水の傍に立っている人物とは距離があるが、ここでは人の声は異質に響いた。  「なんだか怖い……」  一来達に見つからないように噴水の管理用だったらしい小屋の中に身を潜めているので、いっそう不気味に感じるのだろう。私から言わせれば不気味さなどはただの気のせいだが。  『人が来ない場所を選んだのでしょうね』  小さな声でささやきあっていたのだが、斥候として一来にくっついていた蜘蛛のマミは私達の話し声を聞きつけたようだ。木から木へ飛び移って戻ってくると、アイラの髪の毛に着地した。  「マミちゃん、お疲れ様」  アイラは小さな(はさみ)で髪を切って与える。蜘蛛がぷるりと身を震わせた。精命を食べるのは影なのに、小さな虫はやはり精命が本体にも影響を与えるようだ。  マミはなおも丸い瞳でいつかを見つめている。褒めて、と言っているようで愛らしい。  「ありがとう、マミちゃん」  いつかが声をかけると満足したのか、アイラの髪にうずもれた。
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