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「今日はどうだった?」
一来の気遣わしげな声が聞こえてきた。
「うーん、いつもと変わらないかな」
中学校の制服を着た少女が答える。
「ねえ、なぜあいつらをやっつけてしまわないのさ? あんたなら簡単だろう? 影なんだから」
紅霧が不思議そうに尋ねた。
「奏多が望んでないから……」
「だけどこれじゃあ埒があかないじゃないか」
紅霧が水のない噴水の縁に腰をかけ、勢いよく脚を組んだ。スカートがめくれ、白いふくらはぎがむき出しになる。
「紅霧、まあ、もう少し待ってみようよ。僕なら平気だから」
「あんたの心配なんかしてないよ! せっかく精命を貯めたって、黒く染まらなきゃ意味がないんだ。あたしはもういい加減、他の奴に入れ替えたいよ」
一来が紅霧の手の中の銀の鏡をのぞき込んだ。どうやら鏡の中の人物が、何か言ったらしい。
「……あっ。大丈夫だよ。君は気にしないで、ゆっくり休んで……」
一来が慌てて鏡に向かって、なだめるように話しかける。
「鏡の中の子、意識があるのね」
隠れて様子をうかがっていた主人が、呟く。
『一来の精命を流し込んでいるので、鏡の中の本体にはダメージはないようですね』
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