『鏡の中の少女』

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「おおっと」と体をのけぞらせてぶつからないようにしながら、控えめにいつかの肩を支えた人物は……。 「浅葱先生!」 「急いでいるみたいだね」 「ええ。急いでいるんです。通してください」  主人が強引にドアをすり抜けようとすると、浅葱先生は体を横にして道をあけた。 「じゃあこのプリント、識里さんに頼むつもりだったんだけど、一来君に頼むことにしようかな」  手に持った紙を、二人の背中にむかって振った。どうやら後夜祭の時の決算書類のようだ。チケットは販売していないし、音響も学校の設備を使用したので形式上の用紙だが、多少の時間稼ぎにはなりそうだ。 「センセー、ありがとー!」  いつかが振り返って手を振った。浅葱先生は笑いながら、プリントを持っていない方の手を振ってこたえた。影がこっそりと本体よりも0.5秒長く手を振った。
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