『鏡の中の少女』

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塩山(えんざん)中学校……ですか?』 「う、ううん。塩山(しおやま)中学校だよ」なんとか追い付いてきたいつかが訂正する。荒い息を何度もついて「この坂は一日一回しか登れないよ」とブツブツ言った。  ちょうど部活が始まる時間らしく、運動部の生徒達が体操着姿で校門を出ていく。塩山中学校のグラウンドは、道路を挟んで向かい側にあるのだ。 「どこかに隠れる?」とあたりを見回す。 「相手も影なんだから、隠れなくてもいいわよ」 「うん、わかった……けど、だからと言って、校門の前に腕組みして仁王立ちするのは、目立ち過ぎるよ、アイラちゃん……」  と、いつかが門柱の横に主人を引っ張って行った。 『この位置なら校門を出るまでは、生徒達から死角になっていますね』 「アイラちゃんは自分が立っているだけで目立つっていう自覚がないんだよね」 『そうですね』 「一来君に相談しないで来ちゃったけど、よかったのかなあ? やっぱり言った方が……」 「一来が何も言わないんだから、こっちだって言う必要ないのよ」  主人は不機嫌そうに唇を尖らせる。  門を通って下校していく生徒が、門柱の影に立っている主人に気が付いていちいち驚いていく。金髪のツインテールが風に揺れて、通り過ぎる人の目を惹きつけずにはおかないのだ。
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