『鏡の中の少女』

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 少年達の背中を睨みつけたまま、「ちょっとそこの影、話がしたいんだけど」と、主人は少女の影に声をかけた。  「いいけど、後で。約束があるから」影がくぐもった小さな声で答えた。  「一緒に行くわ」  主人は一方的に宣言すると、影の返事も聞かずに先陣を切って歩き出した。  「アイラちゃん、どこに行くの?」  いつかが少女の影を振り返りながら、主人を追いかける。  「そういえば、そうね。どこに行くの?」 主人が問う声と、影の「あれ……? な、んか、おか、しい……」という、微かな声が重なった。  影の輪郭が揺らぎ、ぐらりと倒れかかる。私はとっさに人型になって抱き留めた。  「フラーミィ、影が倒れるなんてどういうこと?」  主人が眉をひそめて聞く。  『そうですね。考えられるのは、マナが足りなくなったか本体の危機か……。おっと』  坂の下から駆け上がってくる人物に目が留まる。  「どうしたの?」     私の視線に気が付いた主人が訝しげに問いかけたが、その人物に目を留めると、「あら」と言って唇が美しい弧を描いた。しかし本来ほほえみであるはずのそれが、残酷な形に見えてしまうのは、目が少しも笑っていないせいだろうか。
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