『鏡の中の少女』

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「た、大変だ……」  肩で息をしながら、一来が私の腕をつかんだ。しかし私は人型ではあるが、少女を抱いているので、一来を落ち着かせるために背中をなでてやることも出来ない……。  などという私の感傷などものともせず、主人は一来の手を私の腕からバシッと音を立ててはたき落とした。 「あーら、一来が紅霧とつるんでいること以上に大変な事なんてないと思うけど?」 「ゴメン、ちゃんと、説明、」  一来は息が調うのを待たずにしゃべろうとするから、話が続かない。 「一来君!」いつかの声が少し震えている。「アイラちゃんの言う通りだよ! なんでなにも相談してくれなかったの?」 「ごめん……。ごめん、言おうと思っていたんだ。公園でも……。だけどアイラは紅霧のこと、悪い奴だって決めつけていたから言えなくて……。本当にごめん。謝るから今は……、助けて……」  息が整うのを待つ余裕もないのだろう。一来は切れ切れの言葉を重ね、頭を下げる。主人は一来の後頭部にふうっと息を吐きかけた。 「……仕方ないわね。それで一体何があったの?」 「奏多(かなた)がいなくなったんだ」  一来の後ろからやってきた紅霧が差し出した鏡には、覗き込んだ主人達の顔ではなく、女の子の部屋らしき空間が映し出されていた。
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