キラルの扉

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キラルの扉

『急いでいるのはわかりました。ですが、まず状況をはっきりさせなければ』  私はワゴンの上の白に金のラインが入った背の高いティーポットを取り上げた。紅茶をカップに注ぎ、それぞれの前にサーブする。白いカップにオレンジペコの紅い色が良く映える。主人のお気に入りの洋菓子店のクッキーを盛り付けた菓子皿を横に添える……。  レンガで出来た暖炉、小ぶりのシャンデリア、飾り窓があるリビングは、大正ロマンの香りが漂い、アイラの祖母桐子が住んでいた当時のまま、時間が止まっているかのようだ。  久しぶりに執事本来の仕事をしたような気がする。胸に手を当ててお辞儀をして一歩下がる。  カチャンッ、と手荒くカップを手に取る音が優雅な時を不躾に破った。   「早く探しに行った方がいいと思うけどねえ」  紅霧は他人事のように言いながら、ティーカップを口に運ぶ。 「ん! 美味しいじゃないか」ともう一口飲む。
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