キラルの扉

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 『ありがとうございます。しかし事情もわからず、危険を冒せと言うのは乱暴ではありませんか? ましてあなたは敵のようですし、ね』  紅霧が同席している状況が不本意な主人は、体ごとそっぽを向いている。紅霧を自宅に入れることをしぶしぶ了承したものの、「私は一言も話さないから」と宣言した後は、クッキーで口を塞いでいる。  いつかは紅茶にもクッキーにも手を付ける気にはなれない様子で、全員に紅茶が渡るとすぐに、一来に向かって言った。  「いなくなっちゃった、ってどういうこと? 奏多(かなた)ちゃんは鏡の中に居たんじゃないの?」  「そうなんだ。だけど鏡の中から消えちゃったんだよ」  「そもそも、あの子はどうして鏡の中にいたの?」  「実は……、あの子がキズトンとか傷大根とか呼ばれてからかわれて逃げていくところを見かけて、追いかけて行ったら、奏多が思いつめた様子で公園のベンチに座り込んでいたんだ。少し話をしたら、死にたいけどそんな勇気はないって。……かける言葉も見つからなくて」
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