キラルの扉

3/12
前へ
/311ページ
次へ
 「そこにたまたま、居合わせた私が鏡の中に入る? って奏多に持ちかけたのさ。奏多の影が悪口を言うやつをやっつければ、奏多もハッピー、私も黒い精命がためられる。お互いに万々歳だろう? だけどあの子の精命は影を保つには少なすぎる。あっという間に死んじまったら精命はいただけないからね。だから奏多の代わりに精名を提供するかい、って一来に聞いただけさ。決めたのは一来、私は提案しただけさ」  紅霧は悪びれもせず説明し終えると、クッキーを一つ口に放り込む。  『もともと、一来に血を提供させる機会を狙って、付けまわしていたのではないですか?』  「そうだったらなんなのさ。だからってなんにも変わらないだろ?」    「僕を信用させるため? そのために手伝ってくれたの?」  「ああ、それはいい手だったね。思いつかなかった。ただ付けまわすだけっていうのもつまらないから、手伝っただけさ。一来と遊ぶのはなかなか面白かったよ」  紅霧はくすくすと笑いをもらす。紅霧には人助けもただの面白い遊びだったのだ。  「ああもう、これだから影なんて」主人が肩をすくめる。  そっぽを向いた体を前に向けると、肩を落として口を半開きにしている一来の肩を「しっかりしなさい!」というように、バシッと叩いた。
/311ページ

最初のコメントを投稿しよう!

262人が本棚に入れています
本棚に追加