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「キラルの扉? 何なの、それ?」
初めて聞く単語に、主人が眉根を寄せる。
説明しようと口を開きかけると「手っ取り早くね」と注文を付けられ、出鼻をくじかれた。主人には気が付かれないように、小さくため息を逃がしてから、口を開く。
『キラルの扉というのは、鏡の世界に繋がる扉を指します。キラルの扉を開けられるものは、鏡の中にいるものだけ。いつかと浅葱先生の場合は、鏡の中にいる時は意識をほとんど失っているような状態でしたから、扉を開けるなどという考えは起きなかったのだと思いますが、どうですか?』
「そうだね。それに鏡に何も映っていない時は、真っ暗で夜みたいだった。紅霧はほとんど鏡を袋に入れていたし、時間が止まっているみたいな感じだった」
『そうです。鏡というのは普通、時間がない世界なのです。鏡に何かを映し出しているときだけ、こちらの世界の時間と同じ時間を映し出す』
私は手に持った鏡を、テーブルの上の見やすい位置に置いた。
『鏡の中の扉を開けてしまうと、現実世界を映し出す、という鏡の特性が崩れてしまいます。現実の景色と鏡の景色が違ってしまうからです。そしてその開いた扉から、鏡の中に時間が流れ込んでしまうのです』
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