キラルの扉

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 腰を浮かせた三人を「ちょっと待っ……て」と一来が呼び止めた。  「あの、皆ごめん……。一人で勝手な事をした。やっぱり僕と紅霧の二人で行ってくるから、皆は待ってて」  頭を下げる一来は、雨に濡れそぼった犬のようにしょぼくれている。  主人は緩む口元を誤魔化そうとして唇を噛んだが、猫のようなつり目が少し垂れて細くなっている。  「何をバカな事言っているのよ。一緒に行くに決まってるじゃない! だけどもちろん、ただで済ますつもりはないわよ。無事に帰ってきたら "お仕置き” よ!」  と言いながら両手で蟹の真似をするように、人差し指と中指を立て、「お仕置き」という単語の前後でくいッと曲げた。  「え、カワイイ! アイラちゃん、なにそれ?」  見たことのない仕草に、いつかが歓声をあげる。  「これ?」と蟹の仕草をしてみせ、「Finger Quotes(フィンガークオーツ)よ。欧米ではよく使うの」と主人が説明した。  「お仕置きっていう意味?」  主人は笑って首を振った。  「違うよ。強調したい単語に使うの。たとえばね、必ず "帰ってくる” !」といつかに向けてフィンガークオーツを使ってみせる。  いつかは一来の視線をつかまえると、ゆっくりを両手を肩のあたりにあげて、一来にも同じことをするように目で促した。  「"りょーかい” !」いつかの言葉に合わせて、一来も一緒にやや照れくさそうに両手の指を曲げた。
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