キラルの扉

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 「制限時間は伸ばせないってことか。やっぱり急がないといけないね。扉が閉まりそうになったら連絡するために、誰かが扉を見張っていた方がいいんじゃないかい。ここなら、いざというとき鏡から出ることも出来るし」  『見張りに残った人間だけでも、リアル世界に戻れる、と。あなたがそんなことを言うなんて意外ですね』  「うるさいね、フラーミィ! そんなことより、窓も開けない方がいいね。キラルの扉が二つになったらどうなるのか、想像もつかない」  紅霧は体ごと窓の方に向き直った。窓にはカーテンではなく、落ち着いたピンク色の無地のロールスクリーンがかけられている。  ロールスクリーンを手でめくると、窓の外は乳白色のモヤに沢山の色でマーブル模様を描いたような空間が広がっていた。マーブル模様はゆっくりと動めいて、眺めていると不安な気持ちになってくる。見たことのない景色は、ここが鏡の中だとはっきりと認識させられる。  紅霧がロールスクリーンの内側に入り、私を手招きした。  「黒炎、優先順位をはっきりさせておこうじゃないか」  ロールスクリーンの内側に足を踏み入れる。確かに主人達の視線に晒されながらしたい話ではない。  『優先順位。私達(・・)らしい言い方ですね。わかりました……が、主人達の前ではその言葉は使わないでいただけますか』  紅霧は片眉をちょっとあげた。同意の意味らしい。  「あんたの一番はアイラだろう。ここに置いていきたいだろうけど、あの子は大人しく扉の見張りなんかしている訳ない」  『アイラは私が守ります』  「一来も行くというだろうね。奏多が一番信頼している人間は一来だから、何か役立つかもしれない。まあ、縁がないわけじゃなし、一来は一応、私が守ってあげるよ」  『いつかは見張りとして待機してもらいましょう。何かあれば、一人でも鏡の外に出られますし、そもそもいつかしか、待っていられる忍耐強さはなさそうですし、ね』  「奏多は見つかれば、奏多の影が面倒みるだろう。だけど、いいかい。間に合わなかったら、誰だろうと置いていくからね。黒炎、あんたが一番大切な者がアイラ。私が一番大事な物は鏡だ。扉さえ閉じれば、元の鏡にもどるんだ。手伝うのはただ、鏡を確実に元に戻すためさ」  紅霧は返事も聞かず、私に背中を向けて、潜り込んでいたロールスクリーンの内側から出て行った。
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