『キラルの世界』

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「それじゃ、行ってくる。頼んだわよ、いつか」  と主人は言うと、鏡のふちから糸を下げてぶら下がっていた蜘蛛にも声をかける。 「扉の中は危ないから、マミちゃんは部屋に戻って待っているのよ」  マミが瞳をくるりとエメラルドグリーンに光らせた。そして糸を引き上げリアルの世界にもどっていくのを見送ってから、開いた扉に片足を踏みいれ、そこで振り返って言った。 「あ、そうそう。私のスマホ、充電がないから一来のスマホに電話してね」と言うと、今度こそツインテールを翻し、キラルの扉の中に入っていった。  いつかを除く全員が扉を抜けた。リアル世界から持ってきた自分の靴を手に、フローリングの廊下を歩く。階段を降りると玄関があった。  一来のスマートフォンが震える。一来がスピーカーに切り替えると、「皆、気を付けてね!」といつかの声が響いた。  「ありがとう。今、奏多の家から外に出たよ。スマホは胸ポケットに入れたけど、聞こえる?」  ーー少し聞き取りにくいから、大き目の声で話してーー  「了解」  スマートフォンから、家具を引きずる音がし始めると、一来は「さあ、行こう」と前を向いた。
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